それは祖父が亡くなったことにより、祖父の遺産をめぐる父とその兄弟のトラブルでした。私の父の生家は東北の片田舎の農家で父は長男、その時は既に祖父の後を継いで農業をしていました。兄弟は5人で姉と2人の妹、末っ子の弟、3人の女性の兄弟はもう他家に嫁ぎ、末の弟は大学の職員として家を出て自分の家庭を築いていました。姉妹が嫁いだ時父は当主として2人の妹の嫁入り費用を負担し、また末の弟の大学の進学費用や学費、生活費を負担していた他、結婚式の費用、家を建てる際の費用の援助をしました。
祖父の遺産をめぐってトラブルとなったのは末の弟との間です。姉と2人の妹は嫁いだ時に多額の費用をかけてもらったとのことで、遺産相続は放棄することにしたのですが、末の弟が中々放棄を納得しなかったのです。
相続するべき財産は、家屋敷の敷地が約1500平方メートルと家屋200平方メートル、作業小屋2棟、水田が3ヘクタール、山林約23ヘクタール、その他いずれに属さない原野が約2ヘクタールほどありました。面積は大きいですが、片田舎のことなので固定資産の評価額の総額で700万円程度のものと父は言っていて、面積の割にはその評価額は低いと感じました。
末の弟は法定の相続分は要求しないまでも、相続分として現金で100万円ほどほしいと言って来ました。父の収入は水田3ヘクタールから上がるコメ代金のみです。自らも祖父と自分達夫婦、私以下3人の二十歳前の子供の生活の面倒を見なければいけないので、コメ代金のみでは不足のため山林を切り売りして生計を維持しており、預金などはあるはずもありません。そんな中に100万円という相続分を要求されたので父は困ってしまいました。
父は末の弟と何度か話し合いをしましたが、弟の言い分は姉達の気持ちはわからないでも無いが、多額の財産を兄貴が独り占めするのは納得できないという言い分でした。その言い分を姉の一人が応援していたので、弟は強気になったようです。水田を切り売りしてしまえばことは済むのですが、それでは父とその家族の今後の生活にかかわります。困り果てた父は農協に相談し、水田を担保に100万円を借金し弟に支払うことにしました。そうして弟はようやく遺産相続放棄の書類に印鑑を押してくれました。
父は遺産相続に当たってはもめごとをしたくない、まして裁判沙汰などはもっての他と口癖のように言っていましたが、もしあの時弁護士さんに相談出来たとすれば、祖父の生前に父が、妹、弟に対して出費した金額が、遺産相続に当たってどのように考慮されたのか興味のあるところです。
法律的には子供の相続分は均等ですが、その出費の分が生前贈与として認められるのであれば、弟の要求した100万円は支払わなくて済んだかも知れません。それでも弟が納得するとは思えないので、父はそれで良かったんだと言っていましたが、後々その100万円の借金に苦しむことになろうとは、その時点ではまだわかってはいません。